部屋

ほんとに見たことのまま書いたり、タネから膨らして書いたりします。

きっとその日は平日だったと思う、ポツポツといた通勤車が少しずつ増えていく、

私はその人たちの3分の2も行かないような速度で、歩く。

 

東京にいく季節が晴れが多くて、美しい、朝と夕方の決まった時間にしか撮らない写真家のことをいつも東京の朝日で思い出し、納得する。

 

朝早くの晴天はアメ横シャッター通りに建物の陰影を柔らかく落とし、彩度を上げすぎないままアメ横はゆっくりと起き出しているようだった。

 

道ゆく駅に向かう通勤者をぼんやり立ってみていると後ろから声がした。

 

「あのちょっと良いかしら」

振り向くと同時に私は声にならないまま息を飲んでちょっと間凝視した、

そこには黒色に身を包み、何重かのネックレスをつけて、黒い唾付き坊に金色の花(薔薇?)のコサージュをつけたおばさまが立っていた(たしか淡いピンク色のキャリーバックをひいていた。)

魔女のようだった、

 

なにかの勧誘か?

 

一瞬身構えた(手元にはチラシは持っていなかった)

 

一瞬の間がとても長く感じた

 

「ごめんなさい、マクドナルドはどこにあるかわかるかしら?」

 

拍子抜けだった。

 

マクドナルド?

 

この魔女が聞いていることがわからなかった。

脳内がバグを起こしてすぐに言葉の意味がわからなかった。

魔女はもう一度聞いた

 

マクドナルドはどこにあるかしら?」

魔女はそのまま話を続けて、どうやら早朝の休憩場所を探しているらしいと理解した。

 

「あ、わかりますよ、」

アメ横マクドナルドは一度時間潰しに使ったことがあったから場所はなんとなく知っていた。

「ごめんなさいねぇ通勤途中に」

 

こういう時は私は曖昧に返事をいつもしてしまう、どんな返事をしようかと考えながら曖昧に相槌を打つ。

 

どんな場所であっても

旅先でその土地の人と間違われるのはいつもちょっと嬉しい、

 すぐに携帯の地図アプリを起動させて一番近いマクドナルドを案内した

 

その魔女はマクドナルドにつくまでに

 

朝夜行バスで東京についたこと

大叔母のお葬式で名古屋からこっちにきたこと

お葬式は明後日の30日にあること

朝早くについたからずっと行きたかった不忍の池に行ってとても美しかったことを

目をキラキラさせながら話してくれた。

 

アメ横は看板が混雑していてGoogle マップではすぐそこのはずなのに

なかなかあの特徴的な看板を探すことができなかった。

 

「もう少しだと思うんですけどね...。」

全然見つからない、もしかして潰れたのか、少し不安になりながら、

その道とGoogleマップを交互にみる

 

「あ、あったあった!!」

横で魔女が嬉しそうに声をあげる、その時でさえ私はまだその看板を見つけられないままあってよかったですねぇなど、いいながらマクドナルドの前まで一緒に行った、

 

道路からすぐレジのタイプの都会のマクドナルドだった。

その前で魔女はこう言った。

 

「お礼にコーヒーでもどうかしら?」

小銭入れを魔女は何処から出しながら私に声をかけてくれた、

こういう時に断ると、すごく残念そうな空気になるのはちょっとなんとなく今は

もったいなかった。

 

「あ、ありがとうございます、じゃコーヒーで」

ふふっと少し嬉しそうにお茶目に笑いながら

「コーヒーお砂糖いらない?」

「あ、そのままで」

私のはテイクアウトにしてもらった

魔女に笑顔でお礼を言って、良い旅をと言い合いながら別れた。

 

魔女と別れて上野公園の方に散歩をしてしばらくして思い出した。

 

2月には30日はない、

その魔女の大叔母の葬式は30日だったから

本当にさっき私が会ったのは魔女だったのかも知れない。

 

まだ暖かいマクドのコーヒーを持って私は

その魔女が目を光らせて話をしてくれた不忍の池に向かった。

 

つづく